STORY 07 『Fukushima 50』
映画化プロジェクト

あのとき、あの場所で何があったのか
絶対に忘れてはいけないことを、
未来に伝え残す。

映像プロデューサー、宣伝、原作編集者の
3つの視点からこのプロジェクトへの
関わり方をお伝えします。

プロジェクト概要

誰もが当事者となった東日本大震災。そして起きてしまった、福島第一原発事故。あのとき、あの場所で何があったのか。関係者90人以上への取材をもとに綴られた、ジャーナリスト門田隆将渾身のノンフィクション『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』(角川文庫刊)を原作とする映画『Fukushima 50(フクシマフィフティ)』が、5年の月日をかけて完成した。追加取材で明らかになった新事実も加わり、2020年3月6日に公開される。福島第一原子力発電所1・2号機当直長・伊崎利夫を演じるのは、『64ロクヨン前編』で第40回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞した佐藤浩市。福島第一原発所長・吉田昌郎役には、『沈まぬ太陽』で第33回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞した渡辺謙。監督は同じく『沈まぬ太陽』で第33回日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞した若松節朗。このほか、超豪華実力派キャスト・スタッフがこのビッグプロジェクトに集結。東日本壊滅の危機が迫るなか、死を覚悟して発電所内に残った職員たちの知られざる“真実”が明らかになる。

Fukushima 50

2011年3月11日午後2時46分、東日本大震災が発生。未曾有の危機にさらされた福島第一原発内に残った、名もなき作業員たちは海外メディアから“Fukushima 50”(フクシマフィフティ)と呼ばれた。あの中では本当は何が起こっていたのか? 何が真実か? 新たな時代に贈る超大作、2020年3月6日公開。

MEMBER 01 YOSHIKAZU TSUBAKI

映像プロデューサー 椿 宜和

PROFILE:テレビ全盛の時代に生まれ育ち、幼少時代からテレビ情報誌『ザ・テレビジョン』を毎週購読するほどのテレビっ子だった。高校生になると、時間を見つけては映画館へ通うように。スクリーンに映し出される世界に没頭していった。就職活動も映画業界一本。以来、映画人生一筋。これまでに、日中オールスター俳優競演の超大作『空海 KU-KAI 美しき王妃の謎』、岡田准一主演『エヴェレスト 神々の山嶺』、二宮和也主演『青の炎』、草なぎ剛主演『任侠ヘルパー』、市川崑監督の遺作となった『犬神家の一族』などをプロデュース。

やるべきか、やらざるべきか。

「まだ何も終わっていない。はっきりとした原因も追究できていない。未だに避難生活を強いられている人たちだっている。この状況で、やるべきなのか」−−。東日本大震災時、未曾有の危機にさらされた福島第一原発。あの場所で起きた出来事を膨大な取材で明らかにしたノンフィクション『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』(門田隆将著)を原作とした映画化プロジェクトが立ち上がったのは、今から5年も前のことでした。「本当に映画化していいのか」。当時社内からも賛否の声が挙がりました。何度も、何度も、議論を重ねました。それでも私はやるべきだと思いました。後生に伝え残す意義があると思いました。東日本大震災は、誰もが当事者でした。この先、日本はどうなってしまうのか、そんな不安に皆が包まれました。しかし、日本人にとってあれほど重大な出来事だったにも関わらず、わずか数年の時間で私たちの記憶から薄れ始めてしまっていることに危機感を覚えていたのです。一人でも多くの人が、あのときの出来事に思いを馳せ、今一度考える機会をつくるべきではないか。そう思ったのです。
それができるのは、映画だとも思いました。映画にしなければ伝わらないこともあるのです。たとえば報道は、起きた事実を“点”で伝えていきます。点と点とがどうつながっているのかは、視聴者には理解しにくい。でも映画は、点と点をつなぎ物語として提示できます。また、臨場感ある映像は、まるで自分がその場にいるかのような感覚にします。職員たちが命がけで闘った5日間を体感することは、決して他人事でなく、自分事として再びあの事故のこと・震災のことを考えるきっかけになる。それが、映画『Fukushima 50』の原点にあった想いです。

事実を、限りなくリアルに。

原作にも「本書は、原発の是非を問うものではない」、「ただ何が起き、現場が何を思い、どう闘ったのか、その事実だけを描きたい」と書かれています。“原発に、賛成か反対か”というフィルターは、あの場所で闘った人たちの本当の姿を見えにくくしてしまいます。映画化に際しても、事実とリアリティにこだわりました。
製作段階では、他の震災・原発関連の書籍はもちろん、当時の新聞記事をかき集め、国会調書や吉田調書も読み込みました。被災された方々にもお話を伺わせていただきました。監督や脚本家ら製作スタッフと、綿密な取材も行いました。原発施設内部を忠実に再現するセットを築くため、静岡県にある浜岡原発の視察も行いました。仕上がった脚本は、ダブルチェック、トリプルチェックで事実確認。複数の報道資料で確認し、専門家の指導も仰ぎました。
多くの人がその名称を覚えているであろう「トモダチ作戦」の様子も劇中に登場しますが、そこでもリアリティにこだわりました。米国大使館、さらにはペンタゴンと幾度も交渉を重ね、日本映画史上初となる米軍の撮影協力も獲得。米軍基地内にある本物の作戦会議室での撮影のほか、現役米兵のエキストラ出演も実現しました。脚本、セット、衣装・・・。細部に至るまで真実にこだわった製作を進めていきました。

真っ先に福島の人たちに
観て欲しかった。

すべての撮影が終わり、仮編集された映像を確認するラッシュ試写。私はすべての撮影現場に同行していましたし、何が映し出されるのかも知っていました。なのに、涙が溢れてきました。この映画には本当に様々な思いが込められています。キャストは佐藤浩市さんや渡辺謙さんをはじめそうそうたる顔ぶれで、製作スタッフも日本映画界を代表する方々に集まっていただきましたが、映画に携わった人たちもまた震災の当事者でした。それは、セリフのないエキストラ出演の演者さんもそう。全員が震災に対するそれぞれの記憶や思いを胸に、この映画と向き合ってきました。様々な人の、様々な思いや感情が一気に押し寄せてきたような感覚で、私は涙を止めることができなかったのです。『Fukushima 50』。単なる超大作という言葉ではくくれない作品が誕生しました。
第一回試写は絶対に福島で、と考えていました。最初にこの映画を届ける場所は他にないという思いもありましたし、やはり福島の人たちがこの映画にどんな思いを抱かれるのか、最後まで不安でしたから。郡山で福島県内の書店員さんを招待した試写会を実施しました。試写後、様々なご意見をいただきました。「思い出してしまう・・・」という声もいただきました。ただ、「こんなに近くに住んでいたのに、あの場所で何か起きていたのかまったく知らなかった」、「これは語り継いでいくべきことだと思う」という声も多くいただきました。福島では、福島の現状を正しく理解してもらい、震災と原発事故の記憶を伝えていこうと語り部の会が発足しているとも聞きます。忘れてはいけない。この映画が、一人でも多くの人の心に何かを残せたらと、今、強く願っています。

MEMBER 02 HIROYUKI KURIHARA

宣伝 栗原弘行

PROFILE:映画の魅力に取り憑かれ、学生時代から映画館に通い詰めていた。就職活動は90年代のバブル崩壊後で、大学の友人たちがそれでも金融界を志すなか、「自分は好きなことを仕事にしたい」と1年間の就職浪人までして映画業界へ。複数の映画会社を経て、2014年、KADOKAWAへ。宣伝担当としてチームをまとめ、『空海 -KU-KAI- 美しき王妃の謎』、『貞子』、『フューリー』、『沈黙 -サイレンス-』、『キングスマン』などの宣伝を行ってきた。

震災を知らない子どもたちへ

初期の段階から、プロデューサーの椿さんや製作スタッフ、キャストの高い熱量を感じていまして、脚本を読んだ段階から素晴らしい作品になることはもちろん、何か特別なものになるという予感がしていました。試写室で完成した作品を観たとき、私は何度か涙を流してしまいました。普段、そうした場では「宣伝担当として、この作品をどう売っていくか」ということを考えながら観ているので、泣くことはないのですが『Fukushima 50』は心を持っていかれる力強さがありました。試写を終え、この作品に込められたメッセージを今の世の中に自信を持って届けられる、いや届けたいと強く感じたのを覚えています。その時、私の頭に思い浮かんだのは、10歳になる息子の顔でした。息子は震災当時、まだ2歳くらいであのときの記憶はありません。『Fukushima 50』という映画は、私たち大人にとって“もう一度考えるきっかけ”になるものでありながら、未来を担う子どもたちにも語り継ぎ、何かを伝えることができる作品だと思います。我々宣伝チームは、「通常の“宣伝”で終わらせるのではなく、“ムーブメント”にしていこう」をスローガンに、若い世代の人たちにも届くプロモーションを全国で展開していきます。椿さんたちが情熱を込め、ときに苦悩もしながらつくりあげたこの映画を一人でも多くの人に届けなければという使命感で本作に挑んでいます。

MEMBER 03 SATOSHI KIKUCHI

編集者 菊地 悟

PROFILE:編集者になりたいと、2004年、KADOKAWA(当時角川書店)に新卒入社。営業部門に配属となり、マーケティング業務を経験したのち、2010年書籍編集部へ。新書・ノンフィクション作品の編集業務に携わってきた。これまでに『上昇思考 幸せを感じるために大切なこと』(長友佑都著)、『ひとりぼっちを笑うな』(蛭子能収著)など、数々の話題作の編集を担当。現在、角川新書編集長などの職に就いている。

まだ終わっていないからこそ。

先日まで私がいる部署に、ある学生さんがインターンシップで来ていました。福島で生まれ育ち、震災があったとき、小学六年生だったそうです。「震災で、小学校の卒業式は行われませんでした」と話していました。2011年に小学生だった子が、就職活動をする年齢になっていたのです。原発事故は、あまりに大きく複雑で、私たち大人ですら何があったのか理解し切れない部分がある出来事。当時幼かった人たちにとっては、現実味すら抱きにくい事象なのかもしれません。だからこそ、知ってもらうべきだと思うのです。あのときあの場所で何があったのかを。
『Fukushima 50』の原作は、『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』(門田隆将著)。世界中が注視した福島第一原発のなかで何が起きていたのかを克明に記したノンフィクション作品です。私自身、大きな衝撃を受けた一冊で、映画では描ききれなかった事実もそこには書かれています。今回の映画化をきっかけに、この原作も若い人たちに届けていきたい。そのためにKADOKAWAのメディアミックスの集大成になるような大きな取り組みを、各部門が連携することで実現させていきます。「震災も原発事故も、まだ終わっていない」。終わっていないからこそ、広く伝え残していく意味があるんだと私たちは思っています。

※記事内容は、取材当時(2019年12月)のものです。