STORY 04 「Re:ゼロから始める異世界生活」
メディアミックス・プロジェクト

複数メディアによる
同時進行で
メディア展開をストーリー化

ライトノベル編集者、コミック編集者、
アニメプロデューサーの
3つの視点から
このプロジェクトへの関わり方をお伝えします。

プロジェクト概要

2002年の創刊以来、数々のメディアミックス作品を生み出してきたライトノベル系レーベル、MF文庫J。創刊当初はアニメやコンピューターゲームの書籍化が多かったが、2007年頃にはオリジナル作品中心のラインナップが確立された。『Re:ゼロから始める異世界生活』(略称リゼロ)はそのような中で、小説投稿サイトから書籍化されたレーベル初の作品である。2014年1月に第1巻を刊行。現在まで短編集を含め21冊の文庫が刊行され、シリーズ累計410万部(2017年12月時点)を突破している。書籍化の4ヵ月後には、『月刊コミックアライブ』でのコミカライズも開始。同年、10月には漫画単行本も刊行された。2016年4月にはテレビアニメ化され、さらに読者層を広げ、2017年の『SUGOI JAPAN Award 2017』のアニメ部門・ライトノベル部門で第1位を獲得。初の複数部門同時受賞の快挙を成し遂げた。『リゼロ』は現在も連載が継続中の作品であり、プロジェクト自体も終わることなく、新たな展開が進行中だ。

Re:ゼロから始める
異世界生活

コンビニ帰りに突如、異世界に召喚された高校生・菜月昴。自分の死亡と共に時間を巻き戻す能力を得た少年の、運命に抗う奮闘を描くストーリー。

MEMBER 01 AKIHITO IKEMOTO

ライトノベル編集者 池本昌仁

PROFILE:大学院では深海の生態や鉱物を研究。就職活動では、もともとライトノベルやコミック、深夜アニメ、ゲームが大好きで、編集者かゲームのプロデューサーになることを夢見ていたこともあり、出版業界を志望。当時、理系出身の編集者を求めていたメディアファクトリー(現在、KADOKAWA )に入社。入社後、MF文庫Jの編集部に配属され、以来、『機巧少女(マシンドール)は傷つかない』『星刻の竜騎士』『Re:ゼロから始める異世界生活』『ようこそ実力至上主義の教室へ』などを手がける副編集長として従事。

オンライン小説の初書籍化へ。
コンテンツならではのメディア戦略を!

『リゼロ』は小説投稿サイト『小説家になろう』に2012年頃から連載されていたもので、Webで好評だったことを目にし、展開を追いかけていました。ストーリーが物凄くしっかりとしていて、その世界観も独特。何よりテーマ性という意味で群を抜いており、ぜひ書籍化してみたいと感じました。やはり、作品が抜群に面白いと思えることが、編集という職業にとっての醍醐味ですね。
しかし、4年前はまだ、オンライン小説の書籍化は手がける出版社も少なく、リスクもありました。Web上では無料で読まれていたものを有料化するわけですから、わざわざ買ってまで読むユーザーはいるのかという疑問を業界の多くの人が抱えていたと思います。そして私自身リゼロについて、WEB掲載時からコア的な人気は高かったですがライトなところには届ききっていないと感じており、この作品は単純に書籍化するだけでなく、この作品を魅せるところの仕掛けで面白いことをやってみようと思いました。
そのためにこのコンテンツに相応しい、メディア展開の方法があるのではないか。そこで、単に書籍化し出版するのではなく、さまざまなメディア展開が同時に進み、コンテンツが広がっていくようなやり方はできないかと考えました。私自身がユーザーだった時、一つのコンテンツが同時に複数のメディアで展開され、その広がり自体を楽しんだことを覚えています。物語が進むと共に、作品の周辺も進んでいく。
つまりメディア展開自体にもストーリー性を与えること。
そのために、ユーザーを巻き込んだ参加型の展開を図ること。
この2つが「リゼロ」プロジェクトのコンセプトのようなものだったと思います。

企画はノリでも、
スケジューリングは緻密に。
ストーリーの構築へ。

書籍化を思いつくと同時に、1年後輩の『月刊コミックアライブ』編集部の赤坂に声をかけ、プロジェクトスタート。もちろん、将来のアニメ化を見据え、アニメプロデューサーの田中にも、面白いコンテンツがあると情報は伝えていました。ただ、アニメ化にはそれなりの予算や条件が必要となり、すぐに展開できるわけではありません。まずは限られた予算の中で頭と足と人脈を使い、出来ることから始めるのが、私たちのモットーであり、仕事の楽しみ方です。
昼夜を問わず、赤坂とは雑談をしながら、お互いのアイディアを出し合い、メディア展開の骨組みと肉付けをしていきました。書籍からのコミカライズはもちろんのこと、『アライブ』とどう連動させていくか。『リゼロ』をユーザーに浸透させるためには、どんな施策が必要か。『アライブ』上での付録付けや宣伝、コミケへの参加やイベントの開催、グッズの提供等々。さらには、『リゼロ』のTシャツやポストカードを自費で作るなど、ユーザー目線のノリでも楽しみながら進めたプロジェクトでもありました。
ただ、企画はノリでも、スケジューリングは緻密に実行しました。例えば、書籍化にあたっては3ヵ月で3冊刊行し、継続性をもたせるとともに、同時期にコミケへの参加やイベントを開催すること。さらには書籍の刊行と連動させて『リゼロ』のイラストを『アライブ』の裏表紙にしたり、付録をつけたりすること。コミカライズも書籍化との継続性とタイミングを重視しながら、コミックの連載や単行本化を行うこと。『リゼロ』に関して常に何か動きがあり、話題や出来事の提供を絶やさないことを心がけ、ストーリーの形成を行いました。ユーザー自身が『リゼロ』の最新の現場に参加し、『リゼロ』の世界を共有すること。今回のプロジェクトの核心はそこにあったと思います。

2016年4月、
テレビアニメの放送を開始。
ストーリーは転換点を迎える。

とはいえ、部数が最初から伸びたわけではありません。第1巻目は予想通り好調でしたが、その後は落ち着いた動きになったというのが実状でした。ただ早い時期に、アニメプロデューサーの田中が2年後のアニメ化を決めてくれていましたので、私たちはアニメ放映から逆算して、アニメがリリースされるタイミングでピークを迎えるような戦略を考えていました。現状、書籍やコミックの展開だけでは作品をより多くの人に知ってもらう拡散力には限界があります。そのためライトノベルの世界、あるいはオタクの世界では、アニメ化が一つ大きなチャレンジのタイミングとなり、たとえばイラストレーターや、デザイナー選びを含めて、アニメまで、アニメの最中、そしてアニメの後に何をするかが、とても大事です。
アニメ化以降、『リゼロ』は書籍でも大幅に部数を伸ばすことができました。
今回の『リゼロ』の成功は、作品はもちろんですが、コミックの赤坂、アニメの田中、その他関係者も含め、それぞれのメディアの最前線で戦っている専門的な知恵と力、コンテンツへの自信と確信が結集することで達成されたものだと思います。また初めての企画や試みでも、それにストップをかけるような環境はありませんでした。そこはとても恵まれていたと思います。だからこそ私たちも、ユーザーを驚かせることに全力投球ができました。『リゼロ』はまだ完結した作品ではありません。今後さらに、さまざまな展開が考えられます。そして、もちろんプロジェクトとして『リゼロ』のストーリーにも、まだエンドマークはついていません。

MEMBER 02 TAIKI AKASAKA

コミック編集者 赤坂泰基

PROFILE:大学院では生物学・農学を専攻し、専門は寄生昆虫の研究。と同時に、コミックやアニメが好きで、漫画家を志望していた。編集担当者も付き、漫画家としての道も視野に入れていたが、当時の編集担当とのやり取りの中、逆に編集という仕事に興味を持つ。そして、メディアファクトリー(現在KADOKAWA)に入社し、現在、『月刊コミックアライブ」にて編集を務める。これまで『のんのんびより』や『リゼロ』などのメディアミックス作品を手がける。

どのタイミングで、どう仕掛ければ、
どういう効果があるか。
ユーザーの心理と行動を熟視し、
メディアミックスを展開する。

今回の『リゼロ』ではコミカライズを担当しましたが、当初から書籍化と同時にコミック展開も考えていましたので、原作の編集担当者である池本に並走しながらの仕事になりました。通常のMF文庫Jのコミカライズとは違い、さまざまな新しい試みに挑戦しましたので、とても印象に残るタイトルの一つです。例えば、『アライブ』でコミカライズ連載前から3ヵ月連続での付録や短編小説の掲載など、過去に例のない試みを行いました。コミカライズにあたっても、通常は小説が第1巻、2巻と刊行され、重版して初めて動き出すのですが、今回はコミカライズの速度感も戦略の一つに組み入れていましたので、小説第1巻が刊行されて間もなく、連載をスタートさせました。また、『リゼロ』の一部を他誌でもコミカライズ連載させるなど、知名度を浸透させる池本の戦略に積極的に協力しました。書籍、電子書籍、コミック、アニメ、ゲーム、イベント、ネット…それこそすべてのメディアを同時に使い、長期的に一つのストーリーを作っていく試みだったと思います。もちろん、原作の持っている力もありますが、私たち自身がライトノベルやコミック、アニメの深いユーザーでもあるので、その心理や行動を熟知し、それに従って最善のタイミングで施策を打っていけたという側面も数多くあったと思います。

MEMBER 03 SHO TANAKA

アニメプロデューサー 田中 翔

PROFILE:大学では法律や経済を学ぶ。社会人になるまでは、アニメやコミックには関心がなかった。新卒入社した会社で、洋画やアニメのプロデューサーを経験。そこから映像プロデューサーとしての人生がスタート。2011年、メディアファクトリー(現在KADOKAWA)に中途入社し、アニメのプロデュースに関わる。現在、主に年間8〜10本ほどのテレビアニメを手がける。池本とのメディアミックス作品は、「機巧少女(マシンドール)は傷つかない」以来、「リゼロ」が2本目となる。

次のアニメ市場に突き刺さる
コンテンツと直感。
制作の原動力は、作品への
愛とクオリティの高い作品づくり。

原作の編集担当者である池本から、『リゼロ』を書籍化したいという話を聞くと共に、面白いからぜひ読んでみてくださいと言われたのが、『リゼロ』のアニメ化を考えたきっかけです。実際、読んでみると、定型化されたオンライン小説とは違い、アニメでも次の市場に刺さる作品になると直感しました。ただ、当時はオンライン小説がアニメ化されてヒットした作品は少ない時代。個人的にはアニメ化したい作品が、実際の制作となるとそう簡単ではありません。1クール(週1で3ヵ月間、12話)でも、2、3億円の費用がかかります。書籍が爆発的にヒットしてからのアニメ化ではなかったので、社内の説得に時間がかかりました。ただ、池本はアニメ化も戦略の一つに考えていましたので、私自身も協力したいと思い、私が選んだスタジオの過去実績や、私自身、それなりの実績を上げてきたこともあり、最終的にゴーサイン。また、当初は1クールで始まり、人気が出れば次のクールというのが普通ですが、この作品は継続させないとストーリー的に浸透しないと、最初から2クール(全26話)でスタートするというチャレンジをしました。結果的に好評を博し、書籍の売り上げにも貢献することができました。社内で連携して、良いコンテンツをさまざまな形で世に送り出せるKADOKAWAだからこその結果であり、他のアニメ制作会社であったら、実現できなかったタイトルだったと思いますね。

※記事内容は、取材当時(2018年1月)のものです。