漫画編集者、アニメプロデューサー、営業の3つの視点からこのプロジェクトへの関わり方をお伝えします。

プロジェクト概要

来る2018年3月3日、映画『文豪ストレイドッグス DEAD APPLE』が全国の映画館で封切りとなる。完全新作の本作は、ちょうど1年前の2017年2月に行われたファンイベント上で制作発表されたものだが、それに先立ってテレビアニメが2016年4月に第1期、同年10月に第2期が放送されている。そしてその原点となるのが、2013年1月号から「ヤングエース」誌上で連載され、いまもなおファン層を拡大し続けている漫画「文豪ストレイドッグス」である。
本作の特徴は、日本の著名な文学作品を生み出した文豪たちがキャラクターとなり、異能力を使ってバトルを繰り広げる点にある。当然、製作陣は第一に作品の面白さを追求し続けてきたわけだが、『文スト』ファンをはじめ若い世代が、日本の古典や名作に興味を持つきっかけを生み出している点にも、業界内外からは注目が集まっている。
漫画連載をきっかけにアニメ化した作品は過去にも数多く存在したが、シリーズ累計500万部を突破した『文スト』は、そうした名作たちにまったく引けを取らない、堂々たるKADOKAWAの現役主力コンテンツと言って良いだろう。アニメのほかにもノベライズ、ゲーム化、舞台化、各種グッズ展開など、さまざまな形でメディアミックス展開を成功させているのも特徴だ。

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「文豪ストレイドッグス」

孤児院を追い出された中島敦が主人公。太宰治、芥川龍之介など、過去の文豪と共に異能力を用いてマフィアと戦うアクションストーリー

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編集

加藤 浩嗣

主に企画、打ち合わせや入稿などの進行等を手がける。併せてヤングエースの編集長業務も担当し、各作品の管理も行う。代表的な担当作品に『異世界居酒屋「のぶ」』『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱』『長門有希ちゃんの消失』『Fate/Zero』『ブラッドラッド』『いなり、こんこん、恋いろは。』があり、2000年代のライトノベルのコミック化ではヒット書籍を多数輩出。現在も『文豪ストレイドッグス』をはじめ多数の作品を手がけている。

ネットを通して出会った原作者と作画家。
企画の面白さに、大きなうねりの予感があった。

私が、のちに『文豪ストレイドッグス』の原作者となる朝霧カフカさんのことを知ったのは、ニコニコ動画を観ていた時でした。面白いストーリーの動画だなあと思って、私たちはすぐにシナリオライターであるアップ主のご本人と会う約束を取り付けました。声をかけたのはKADOKAWAがいちばん最初だったということです。
2度目の打ち合わせで「文豪をキャラクター化したバトルアクション漫画を作ろう」と盛り上がり、企画を進めることになりました。これまでにも文豪を取り上げた漫画はありましたが、事実をベースに半生を描くものが大半。でした「文豪のキャラ化」はまったく毛色も違うし、新しい読者を獲得できるのではないかという予感もありました。
当社には角川文庫もありますので、文豪モノを活字化した際の出口もあります。実は最初期の段階で、ノベライズも含めた大きなうねりがつくれるかもしれないという、おぼろげな野心もありました。
企画が決まったら次は、作画担当者を探しました。そこで出会ったのが、SNSでイラストを発表していた春河35さん。ご本人は「ちゃんと漫画は描いたことがない」とおっしゃっていましたが、私なりに目指すべき世界観は見えていたので、「大丈夫!やりましょう」と声をかけました。私も朝霧カフカさんも春河35さんも、若かったから勢いでやれてしまったという面もあったかもしれません。
2012年1月号の「ヤングエース」で連載開始。4〜5回の連載分をコミックス第1巻として刊行する時には、すでに周囲からの大きな反響を肌で感じていました。営業から上がってくるバイヤーさんや書店員さんの反応はもちろん、雑誌でのアンケートも大変好評だったことが後押しとなりました。コミックス第1巻は勝負をかけて初版で4万部を刷り、すぐに重版がかかりました。

コミックス1巻を持ってアニメ部へ
連載と並行して制作を進める慌ただしい日々のはじまり。

編集担当としてこれまでにも多くの作品を手がけてきましたが、もちろんのこと、すべてがヒット作になったわけではありません。ただ、売れる作品に関しては、コミックス第1巻が出る頃には雑誌でのアンケートも大変好評だったことが後押しとなりました。私は刷り上がったばかりのコミックスを手に持って、社内の各所を回りました。その中のひとつがアニメ部です。プロデューサーの倉兼はすぐに企画書を書いて、上長に上げてくれたそうです。コミックス第3巻で累計30万部を超えたあたりで、具体的にアニメ化のプロジェクトも動きはじめました。連載開始からちょうど1年が経った頃です。
アニメの制作には朝霧さんと春河さんに多大なご協力を頂きました。連載を続けながら、朝霧さんには毎週シナリオ会議にご出席いただき、春河さんには描き下ろしを数多く頂くなど、原作作画の2名体制だからこそ出来た制作体制だったと思います。
同時に、漫画の連載もおろそかにせず、力強いストーリーを継続して発信し続けなければなりません。編集担当として心を砕いたのは、「面白い」の基準を常に持ち続けることだけでした。本筋については私も朝霧カフカさんも価値観は共有できていますので、大きく手を加える必要はありませんでしたが、そのキャラクター設定を男性にするか女性にするか、年齢はどうするかヴィジュアルをどうするかなど、微修正は何度も議論を重ねていきました。

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「文豪をキャラ化する」
というコンセプトだから実現した、
漫画ファン、アニメファン、古典文学ファンの新たな交流。

「文豪ストレイドッグス」に編集担当としては、いくつかのテーマを持ちながら作品と向き合ってきましたが、そのひとつは先生方がもっと活躍できる場をつくりたいということ。朝霧さんは絵だけでなく、文章を書かせても素晴らしいので、いつかは春河さんの装画で朝霧先生の小説を出したいと考えていました。角川ビーンズ文庫編集部の力を得て、それが叶ったのが2014年のこと。その後、外伝小説では京極夏彦さんや綾辻行人さんなど、第一線で活躍する作家さんとのコラボレーションも実現しました。
もうひとつ、テーマとして持っていたのは、文豪と呼ばれる日本の作家たちがかつて書いた「名作」や「古典」を若い読者さんにもっと親しみを持って読んで貰いたいということでした。
実際に、「文スト」ファンが太宰治や国木田独歩の名作を買い、純文学ファンが「文スト」のコミックスを買うという現象が、起こっています。これは編集者冥利につきますよね。
アニメ第1期第2期の放送、そして舞台化を経て、いま公開が目前に迫っているのが劇場版「文豪ストレイドッグス DEAD APPLE」です。「ヤングエース」でのデビューから丸5年、新人作家だったお二人ともが初連載ということでプレッシャーや不安も相当なものだったと私は思います。なぜここまで、一丸となって作品をつくれたか。それは、読者や視聴者の皆さんに育てていただいてきたからです。「文スト」のスタート地点は、やはり原作の面白さにあります。編集者として私は、先生方と協力して、面白く、驚きにあふれ、読者の皆様の心に爪痕を残せるような作品作りを心掛けていきたいと思います。

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アニメプロデューサー

倉兼 千晶

アニメのプロデューサーとして『文豪ストレイドッグス』に携わる。アニメだけでなく、様々な媒体への展開や商品企画も行う。他代表作として、TVシリーズ、映画、舞台をプロデュースした、『デート・ア・ライブ』や映画『新妹魔王の契約者』第一期などがある。

メディアミックスにおける統括者

もともとの私はアニメプロデューサー担当は「アニメ」がメインとなります。文豪ストレイドッグスに関しましては、原作をアニメ文豪ストレイドッグスにしたことから、舞台に関してもプロデューサー的な役割を与えていただきました。細かな作業をお話しし出すと作業が多岐に渡りますので、大きく括ってしまえば、いわば、メディアミックスにおける統括者の立ち位置かと思います。作品としての軸を打ち立てる役割と認識しています。確認と判断の日々です。
この作品と出会ったのは、編集の加藤さんがアニメ部にコミックスを持ってきたことがきっかけでした。読み込んで見ると、なかなか泥臭く、歯ごたえのある作品でした。命の重み、生きる意味、成長といった、本質的な命題と向き合っていると感じました。どうにもこうにも私好みの作品で、自分でメディアミックス化したく、今まで手掛けてきた作品と毛色が違いましたが「私がやりたいです!」手をあげました。
私はメディアミックスの意味は、ファン層の拡大だと私は思っているので、コミックスも小説も区別して考えていません。そして最終的には、原作に還元したいと思っている。「アニメファン」「舞台ファン」というより「文ストファン」を増やしたいという想いで、それぞれのアウトプットにも携わっています。
今回、プロフェッショナルの方々の協力を得て映画が公開しますが、今後のことを考えると、海外展開も視野に入れるべき時期かもしれません。「文スト」には、世界と勝負できる熱量があると思っています。

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営業

石橋 颯平

主な業務は新刊の初版部数の提案、重版の提案、配本、販促企画の立案・実行、売上予測、在庫管理などを行う。ヤングエース編集部、ガンダムエース編集部、スニーカー文庫編集部、文芸ノンフィクション局 コミックス商品担当、作品としては『異世界居酒屋「のぶ」』『服を着るならこんなふうに』『であいもん』『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン』『ウメハラ FIGHTING GAMERS!』などを担当しており、読者に手を取ってもらえるよう様々な施策を日々考えている。

原作コミックスを売るのは、大前提。
狙っているのは、そのパワーを別の作品群にも波及させること。

「文豪ストレイドッグス」では、コミックスをいかにして書店で拡販していくか企画を立てる立場にいます。通常、アニメ放送開始時をピークに徐々に売れ行きが落ち着いていくものなのですが、「文スト」は、2クール目に入っても売れ行きが落ちる気配がありませんでした。現場の書店員さんが本心から応援してくださったことも大きな要因だと思いますが、彼らにそうさせる、ストーリーとキャラクターの強さが際立っていたように思います。
印象的なのは角川文庫とのコラボ企画です。キャラクターのモデルとなった文豪たちの作品を「文豪ストレイドッグス」アニメ描き下ろしイラストカバーとする企画を実施したところ、若い層からの問い合わせや注文が殺到したと聞いています。太宰治、谷崎潤一郎、与謝野晶子などによる日本文学と、若い世代の出会いの場が生まれたことは、私にとっても貴重な体験になりました。
書店は新しい作品との出会いの場だと思っています。「文豪ストレイドッグス」をヤングエースの看板タイトルとして売り場へ展開していき、今後ずっと愛されていく作品としてファンを増やし続けたいと思います。さらにそのパワーを活かし、新たな看板タイトルが生まれるよう拡販企画を立てていきたいと思います。