映像プロデューサー、文芸編集者、海外ライセンスの3つの視点からこのプロジェクトへの関わり方をお伝えします。

プロジェクト概要

原作は大ベストセラー作家・東野圭吾先生の『ナミヤ雑貨店の奇蹟』。2011年4月から文芸誌『小説野性時代』に連載され、翌年3月、単行本化され単行本化されるとともに、『東野圭吾史上、最も泣ける作品』として話題になり、30万部突破のベストセラーを記録する。第7回中央公論文芸賞を受賞。2014年、角川文庫にて文庫化。2017年には角川つばさ文庫からも刊行された。映画化は2013年頃から脚本制作が着手され、2017年9月に公開。単行本化と同時に中国圏から翻訳出版のオファーが相次ぎ、アジア市場でもベストセラーとなる。同時に、海外での映画化のオファーも殺到し、2017年12月には、中国版の映画も公開。また、数々の舞台化もされ、単行本・文庫を合わせ、全世界累計1200万部の大ベストセラーとなった。現在、TVドラマ化のオファーもあり、東野圭吾作品の中でも、最もグローバルな市場で成功したプロジェクトといえる。

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「ナミヤ雑貨店の奇蹟」

昔ながらの不思議な雑貨店を舞台に、悪事を働く青年が逃げ込んだ廃屋にて、悩み相談を請け負う雑貨店主との時空を超えた交流を描く。

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映像プロデューサー

二宮 直彦

新卒で印刷会社に入社。映画好きが高じて、2005年に㈱角川エンタテインメントに中途入社し、DVD販売の営業を経験。営業と兼務でDVDコンテンツ企画制作事業のプロジェクトリーダーを務め、壇蜜主演の『私の奴隷になりなさい』が大ヒット。2013年、映画企画部配属に。これまで、『体脂肪計タニタの社員食堂』『GONIN サーガ』『Zアイランド』など、数々の作品を手がける。東野圭吾先生の『ラプラスの魔女』のアソシエイトプロデューサーも務める。

ベストセラー小説をどう映像化するか。
プレッシャーとの戦い。

原作が東野圭吾先生となると、出す本がすべてベストセラーとなり、映画化も次々とされています。雑誌連載と同時に、単行本化、文庫化、映画化は規定の流れです。むしろ、どんなタイミングでメディアミックス化を進めていくが重要な課題となります。実際、書籍化と同時に、他の映画会社からのオファーが届き、そこで映画化が進められていました。私も本を読んだ時、ノスタルジックでもあり、ファンタジックでもある、心温まるストーリーに魅力を感じ、ぜひ、映画化を手がけてみたいと思っていました。その一方で、5編の短編からなる群像劇で、映画化は非常に難しいという印象を持ちました。
そんな中で、開発を進めていた映画会社から映画化を断念したという一報が入り、間髪入れずに自社で制作しようと動き、2013年秋に映画化の開発がスタート。企画プロデューサーとして正直、プレッシャーを感じました。東野圭吾という大ベストセラー作家の映画化であり、予算規模も大きく、当社のテントポール作品です。ファンタジー、ミステリー、ドラマと多層的にレイヤーが重なった、この高度な構成と緻密に計算されたストーリーをどう映像化し、幅広い層に受け入れられる作品にするか。極めてハードルの高いチャレンジとなりました。

東野圭吾先生ならではの高度な小説構成に、
脚本制作に悪戦苦闘。

企画プロデューサーの仕事には、原作選び、脚本家や監督を選定するスタッフィング、出演者などのキャスティング、そして製作委員会組成など、大きく4つの業務があります。作品選びについて、本プロジェクトの場合は当社屈指の大ベストセラーという事もあり、選ぶというよりは如何に実現していくかの方が重かったです。スタッフィングやキャスティングは、映画のクリエイティビティに関わること。製作委員会の組成は映画を事業として成功させるためにどういったパートナーと組むかを考える。どれもプロデューサーの極めて重要な役割です。
脚本の制作に着手して、あらかじめ予想していた通り、非常に難航しました。脚本を手がけていただいた斎藤ひろし氏とは数えきれないほど何度も打ち合わせを重ねまして、途中からは廣木監督も合流し、緻密に計算された原作の構成から、改訂作業に長い時間を要しました。脚本があるレベルまでいってからはその都度、原作の編集担当者である高橋を介して、東野先生にチェックいただき、時には映画にする上での翻案について直接お会いして意見交換させていただきながら進めました。一つの案を加えると、全体の辻褄が合わなくなることが多く、最終稿が決定するのに13稿を重ね、クランクイン直前まで細かい改訂作業を行い、非常に長い時間をかけました。その結果として、東野先生からも満足いただける質の高い映像化ができたと思います。

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エンターテイメント市場はグローバル。
日本のコンテンツを世界へ。

この映画の場合、監督が決まる前にキャスティングが先行しました。当社製作映画『グラスホッパー』において繊細でインパクトのあるお芝居を見せた山田涼介さんを主演に是非!とオファーし、快諾いただき、心優しい雑貨店の主人には昭和を代表する名優・西田敏行さんを起用。廣木隆一監督からも初めてトライするジャンルだと意欲的に快諾をいただきました。他キャストは群像劇という事もあり全体的なバランスを見ながら監督と意見を出し合い拘りぬいた為、クランクイン直前まで非常に苦労しましたが人気・実力のある俳優さんが集まりました。主題歌には山下達郎さんを迎えて、豪華メンバーによる映画化が実現。製作委員会組成は東野圭吾原作で豪華な俳優陣ということもありスムーズな構築ができました。2017年1月に撮影を開始し、6月に完成。9月に全国343館で拡大公開しました。
今回のプロジェクトは、原作がアジア圏でも大ベストセラーを記録し、アジアにおいて日本映画としては異例な注目度で多くの会社からオファーをいただきました。普段、国内市場を中心に考える映画制作からグローバルな視点を意識させてくれるキッカケになりました。海外セールスに関わる業務は、海外ライツ営業課の鈴木が先頭になって進めましたが、鈴木と連携しながら、海外映画祭や国際見本市への出品、配給会社の選定などに関わりました。映画化の成功とともに、書籍の部数拡大にも貢献できたと思っています。今回、海外のマーケットも含めて、非常に幅広い層に訴求する映画を手がけられたことは、自分のキャリアにとっても大きな経験になったと思います。今後さらにグローバル市場も意識した、質の高いコンテンツの映画制作に携わっていきたいと思っています。

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文芸編集者

高橋 優一

高校時代に学園祭のパンフレット作りに関わり、編集の面白さを知る。将来は雑誌や書籍の編集者志望となる。出版社を第一志望に就職活動を開始。角川書店に入社し、スポーツ雑誌の編集を6年間経験した後、07年に文芸編集部に異動。現在、東野圭吾のほか、湊かなえ、堂場瞬一、柚月裕子など40人ほどの作家を担当。年間、20冊前後のペースで、単行本、文庫を手がけている。

いかに才能ある作家を発掘し、
質の高いコンテンツを確保できるか。
メディアミックスの端緒となる
原作づくりを目指す。

今回のプロジェクトの原作『ナミヤ雑貨店の奇蹟』は、文芸誌『小説野性時代』の連載からスタートしました。東野圭吾先生という大ベストセラー作家になりますと、原稿をいただくのがたいへん難しくなります。現在、東野圭吾先生は5、6社の出版社と付き合いがあり、原稿をいただけるのはだいたい3、4年に1回という、売れっ子の作家です。私自身は、10年ほどの付き合いをさせてもらっていて、これまで『ナミヤ雑貨店の奇蹟』のほか、『夜明け街で』や『ラプラスの魔女』などの東野作品を担当してきました。雑誌連載のスタートに際し、雑誌の編集担当者とともに、東野圭吾先生と何度も打合せを重ねながら、小説の企画・構成の段階から携わることができました。編集担当としては、メディアミックスを実現させ、それによってどれだけ幅広い層にまで読者を増やしていけるか、たとえば映画化にあたってどれだけ原作本を手に取ってもらえるかが、重要なポイントになってきます。私の役割は、すべてのメディアミックス化に伴う、契約条件や脚本内容の決定などに関して、原作者側と制作者側の橋渡しとなることです。今回のプロジェクトでは、映像担当の二宮とも密に連携しながら、東野圭吾先生のもとを何度も訪れ、ベストな結果を探って何度も打合せを重ねました。その結果、映画化によって、書籍の部数を大きく伸ばすことができたと思っています。

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海外ライセンス担当

鈴木 朝子

大学では英文学を学ぶ。カナダへの留学を通して、英語力を磨く。英語力を活かして、映画に携わる仕事に就きたいと角川映画へ入社。入社後、KDOKAWAが所有するIP(知的財産ライセンス)の海外セールスに部署に配属され、アニメや映画の海外セールスに携わる。現在、KADOKAWAが制作したアニメや映画などを海外にセールスする海外ライツ営業課のマネージャーを務める。自らの力でIPの価値を最大化するという、IPビジネスの魅力にどっぷりはまっている。

世界の映画バイヤーと交渉しながら、
最大限のメディア拡大を目指し、
日本の優れたコンテンツを世界へ発信する。

今回のプロジェクトでの私の役割は、二宮たちが制作した映画を海外展開することでした。『ナミヤ雑貨店の奇蹟』は、原作が中国語圏で翻訳出版されており、原作が各地で大人気だった為、映画配給のオファーが、販売開始と共に殺到しました。今、アジア市場では、質の高いコンテンツを求め、多くの配給会社が凌ぎを削っています。中には配給実績のない会社も多く、優れたIPの確保だけに奔走する会社も少なくありません。それはまた、日本の優れたコンテンツが価値のあるものと認識され、求められている証拠でもあります。実際、今回のプロジェクトでは、セールスに苦労したことよりも、海外の配給会社を選定することに、大きな苦労をしました。映画作品を販売しても、現地で展開がされなければIPビジネスが拡大出来ない為、金額の条件もさることながら、どのような規模で、どんな劇場展開をするのか、そのあたりが選定するのに一番時間をかけたポイントでした。『ナミヤ雑貨店の奇蹟』のような原作力の強いコンテンツは、IPビジネス冥利に尽きますが、実状、実写映画は海外のバイヤーから見れば、まだニッチなコンテンツという見られ方をされる事が多く、販売に困難を極める事もあります。映画祭や国際見本市への出品・出展をしながら、海外セールスの交渉をするのが海外ライツ営業の仕事になります。昨今海外で人気が高まっているアニメ作品も多く扱っておりますので、優れた日本アニメの海外展開に関わり、新たなカルチャーや流行の創造に携わっていると感じられる事も、この仕事のやりがいの一つです。今後も、日本の優れたコンテンツを海外に発信していきたいですね。